先日の地方会にて膵漿液性嚢胞腺腫(以下SCN)関連の発表をしてきました.出血を来し,鑑別困難であったSCNの症例ということで日本でもレアケースらしく先輩の消化器内科医指導の下,論文にさせて頂こうとしているところです.
消化器内科医として臨床,カメラの技術はもとより学会発表などで積極的に情報発信していく必要性を感じる今日この頃です.
というわけで今回は膵嚢胞性疾患について少し述べたいと思います.
まず膵嚢胞性疾患でも主要な位置づけを占める,
膵漿液性嚢胞腺腫(SCN:serous cystic neoplasm)
粘液性嚢胞性腫瘍(以下MCN:mucinous cystic neoplasm)
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN:intraductal papillary mucinous neoplasm)
について述べます.
そもそもこの3疾患はしばしば鑑別が難しくなることがありますが,基本的には疫学・特徴的所見である程度検討をつける必要があると考えます.(以下別冊日本臨牀 新領域別症候群シリーズより抜粋)
疫学
SCN
・膵腫瘍全体の1-2%
・年齢:中年(50-60代)
・性別:本邦報告例172例の集計では,患者の平均年齢は60.8歳±12.5歳で男女比は1:2.45と女性に多い傾向にあったが,有意差はなく男性例も多数存在
・好発部位:頭部40%前後,体尾部60%前後とこれも有意差はない.
MCN
・膵腫瘍全体の2-5%
・年齢:50歳代
・性別:女性が98.1%.男性発症は極めて例外的.
・好発部位:体尾部発生.頭部発生は極めて例外的.
IPMN
・年齢:60-70歳代と前2者に比し,やや高齢.
・性別:男性が70%程度と考えられているが,女性例も増加傾向にある.
・好発部位:有意差なし
以上のように疫学だけをみても,絞込みをかけることはできます.但し,例外も存在するため,総合的に鑑別することが重要です.次に各々の特徴(画像所見も含め)を見ていきます.
病理学的特徴・画像所見・鑑別
SCN
病理学的特徴
・グリコーゲンに富む淡明な立方上皮で構成される小型嚢胞が蜂巣状に集簇.
次に示す亜型がある.
①Microcystic Type:最も一般的.数㎜の微小嚢胞の集簇.星芒状瘢痕や中心石灰化が特徴的.
②Macrocystic Type:数㎝の嚢胞が中心.
③Mixed Type:
④Solid Type:顕微鏡下の微小嚢胞であり,充実性腫瘍様を呈する.
画像所見
・CT:小嚢胞の集簇を認める.※Solid Typeのみ早期濃染を示し,内分泌腫瘍に酷似.
・ERP:主膵管との交通なし.
・MRI
T1低信号→嚢胞内の出血やゼリー状の内容物(コレステリンなど)を伴う場合,高信号となる.
T2高信号・隔壁低信号
・MRCP:嚢胞性病変を反映し,分葉状の著明な高信号.小嚢胞がhigh intensityな結節様に見えることもある.
・EUS:多房性嚢胞性病変であり蜂巣状の構造が観察できる.
境界は明瞭で後方エコーの増強が認められる.
※Solid Typeは周囲にhaloを伴う境界明瞭な高エコー腫瘤として観察される.
以上の所見より
鑑別
Microcystic Type→IPMN
Macrocystic Type→MCN
Solid Type→内分泌腫瘍
がそれぞれ重要となる場合がある.
出血や内部変化を伴うSCNとMCN・内分泌腫瘍との鑑別や,Solid Typeの認識が非常に重要になる.
MCN
病理学的特徴
・粘液産生する嚢胞性腫瘍であることから,IPMNと混同されてきた.
・膵の発生過程において,卵巣様間質が迷入.ホルモンやgrous factorにより近傍上皮が増殖. ホルモンレセプター陽性の間質を伴う.
・膵外方へ突出する,線維性被膜をもった単房-多房性,夏みかん様の嚢胞性腫瘍.
・内部には大小の嚢胞が独立して存在し,cyst in cyst構造を呈する.出血や壊死物質が多い.
画像所見
・CT:被膜の造影効果あり.壁在結節の濃染,石灰化が特徴的.
・ERP:(IPMNと異なり)膵管との交通はない.
・MRI
T1低信号.※内部に出血を伴う場合は高信号.
T2高信号
※被膜・隔壁についてはT1T2ともに低信号.
・EUS:隔壁内部の小嚢胞の構造.
・FNA:嚢胞液CEA値192cut offで感度:73,特異度:84と言われている.
※ただし,日本では嚢胞穿刺は推奨されていない.
以上のように内部構造が多彩であればあるほど,その他疾患との鑑別が困難になる.どちらかと言えば,中年女性,体尾部発症がキーワードとなる可能性が高い.
鑑別
分枝型IPMN
IPMN
ちょっと前のブログに詳しく記載がありますが…
病理学的特徴
・粘液貯留による膵管拡張を特徴とする,膵管上皮系腫瘍.
・腺癌,良性腺腫があり,腺癌であっても通常型癌とは異なる進展様式であり,予後良好例が多いが,しばしば多発する.
・主膵管型と分枝膵管型に分けられ,主膵管型で癌の頻度,浸潤度ともに高い.
・cyst by cyst構造でブドウの房状の病変を呈する.
画像所見
・CT:多発嚢胞.造影効果のある結節.
・ERP:主膵管または分枝膵管の拡張.
・MRI:通常の嚢胞性腫瘍と同様.
・MRCP:膵管全体の描出には役立つが結節と,粘液塊との鑑別はできない.
・EUS:FNAは欧米では積極的に施行されているが,本邦では播種の危険性から奨励されていない.基本的に粘液塊はhigh,壁在結節や癌部はlowに観察される.
こちらも乳頭所見(コイの口様)や主膵管型IPMNなど特徴的な所見がある場合は鑑別は比較的容易かと思われます.
鑑別
慢性膵炎,通常型膵癌.分枝膵管型とMCNなどとの鑑別が困難な画像所見を示す場合がある.
最後に
治療
SCN
径4㎝を超えるものは悪性の報告もあり,積極的切除の方針.
MCN
Malignant potentialを有するため,基本的に外科手術.浸潤癌の5生率は62.5%
IPMN
・主膵管型:基本的に手術の方針.膵管内結節,1㎝以上の膵管拡張.
・分枝膵管型:有症状,壁在結節,主膵管拡張,細胞診悪性,拡張分枝3㎝以上で手術適応
となります.最近の印象では単独の画像所見では鑑別は難しいと感じています.造影CT・MRI・EUSの画像所見を総合的に判断し,診断する必要があると考えます.今日はこの辺で…
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