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C型肝炎治療の新展開~Direct Acting Antivirals;DAAの最新知見~

久しぶりのupです.最近はずっと放置していた論文作成に取り組んでいたので!
本日はC型肝炎の治療について書きます.(メディカルASAHIなどより)

C型肝炎治療のこれまで

IFN治療とその問題点

日本における肝癌の70%はHCV感染が原因である.
C型慢性肝炎は放置すると肝硬変になり肝癌を発症する.そのため抗ウイルス薬が奏功し,HCVが駆除されると発癌が抑制されるため治療薬の開発が行われてきた.
これまではインターフェロン(IFN)という非特異的な抗ウイルス薬が主役であり,治療に限界があった.
C型肝炎の中でも,genotypeによって駆除の難度が異なる.
日本人では30%がⅡ型,70%がⅠ型のHCVに感染しているが,genotypeⅠ型は極めて治療しにくく,従来のIFNでの駆除率はわずか5%しかなかった.

IFN以降の治療法

治療法の進歩

しかしHCV治療薬は継続的に進歩
・経口薬リバビリン(RBV)の併用でHCV駆除率は15%上昇
・週1回の投与で強い活性を有するペグインターフェロン(Peg-IFN)の登場でさらに30%上昇

それでも直接作用型抗ウイルス薬(Direct Acting Antivirals;DAA)が登場する直前の標準治療
Peg-INF+RBV併用療法
→HCV駆除率は50%と限界があった.

IFNの限界,IL28B遺伝子多型

Tanakaらによって解明されたIL28B遺伝子多型であった.
IL28B遺伝子のタイプ,すなわちC型肝炎患者の体質がIFNに対する体の反応を決定しており,IFNに反応しないIL28Bマイナータイプの患者
→Peg-INF+RBV併用療法での駆除は困難

よってIL28B遺伝子のタイプに関わらず有効な薬剤の開発が嘱望された.
また標準的な治療期間の48-72週間は高齢者にとっては副作用の観点から厳しく,副作用が少なく短期間で済む治療法が必要であった.

新薬・直接作用型抗ウイルス薬(Direct Acting Antivirals;DAA)の登場

DAAとは?

HCVが肝細胞のなかで増殖するためにはHCV自身が作る3種類の蛋白質が必須である.

  1. NS3:HCVの蛋白を適切に切断するプロテアーゼ
  2. NS5B:HCVのRNA複製を司るポリメラーゼ
  3. NS5A:HCV複製過程の複合体形成で主役を演じる

DAAはこれらの3種類のHCV蛋白質のいずれかの活性をピンポイントに阻害することで増殖を止める,HCVに対して特異的な新規治療薬である.

DAAはそのターゲットにより
・NS3阻害剤
・NS5A阻害剤
・NS5B阻害剤
の3クラスに分類され,それぞれHCVが増殖するうえで重要なステップを特異的に抑えることで効果を発揮する.
HCV増殖に際しての必須蛋白を阻害するDAAが登場し,治療成績が格段に進歩した.

DAAの問題点

これらのDAAの阻害活性は極めて強いが,最大の問題点は薬剤耐性である.
DAAを単剤で使用するとなんとわずか数日でHCVは遺伝子の変異を来たし,DAAが効かない耐性ウイルスに変化してしまう.
DAAとIFNを併用したり,複数のクラスのDAAを同時に併用すると薬剤耐性の出現を防止できるため,既に発売されたDAA,あるいはこれから登場するDAAはいずれもPeg-IFN・RBVと同時に使う3剤併用療法か,あるいはDAA同士を組み合わせて使用する必要がある.

最初のDAAテラプレビル

テラプレビルの効果

NS3阻害剤テラプレビルはgenotypeⅠ型でウイルス量が多い症例に対して
Peg-IFN・RBVとの3剤併用療法であった.

治療効果は極めて高く
・HCV駆除率は73%
・前治療で駆除できなかった無効例→テラプレビル併用療法で再治療すると34%の駆除率
・従来のPeg-IFN・RBV併用療法では効きにくいIL28Bマイナータイプ→約50%の駆除率
このようにテラプレビルの登場によりHCV駆除率は格段の進歩を遂げた.

テラプレビルの問題点

・8hごとの内服.しかも食事を摂ってから内服する必要がある.
・Stevens-Johnson症候群などの重篤な皮膚障害,高度の貧血,急性腎不全,重症感染症などの重大な副作用があるため,皮膚科専門医との連携がとれる肝臓専門医だけが処方できる.

これらにより治療成績の向上は果たしたが,安全性は逆に低下してしまった.

第二世代DAAシメプレビル

シメプレビルの効果

テラプレビルについで2013.12に登場したのが,NC3阻害剤のシメプレビルである.
対象
・genotypeⅠ型に対するPeg-IFN・RBVとの3剤併用療法
・初回治療ではウイルス量が多い症例が対象
・IFN治療歴がある症例は全例治療対象

特徴
・1日1回の内服で食事の影響を受けない
・テラプレビルのような重篤な感染症を惹起することがないため極めてコンプライアンスが得やすい.
・安全性が高く処方制限もなく,肝臓専門医以外でも処方が可能になった.

治療期間
・最初の12週間はシメプレビルとPeg-IFN・RBVを使用
・その後の12週間はPeg-IFN・RBVだけで治療.
総期間24週間の治療である.治療効果に応じて最大48週間までの期間延長も可能とされる.

治療成績

・初回治療患者:駆除率89-92%
・前治療で一時的にHCVが陰性化したあとに再燃した症例:90-97%で駆除が成功するという極めて良好な成績である.
・IL28Bマイナータイプ:75-78%と高率な駆除率

また従来のPeg-IFN・RBV併用療法では高齢者の治療成績は明らかに低下したが
シメプレビル併用療法によるHCV駆除成功率
・20-45歳で87%
・45-65歳で90%
・65-70歳で86%であり,高齢でも治療効果が下がらないのが特徴である.

このように今まで難治の要因だった高齢は克服し,治療期間も短縮でき,IL28B遺伝子のタイプに関わらず成績が格段に向上した.
しかしIL28Bメジャータイプの94-100%と比較するとマイナータイプの成績は若干低く,また前治療で全くウイルスが消えなかった無効例では,シメプレビルで再治療してもHCV駆除率は39-51%にとどまるため,超難治例ではさらなる治療成績向上の余地があった.
またIFNが副作用でどうしても使えない症例ではIFNなしの治療薬の開発が望まれた.

IFNなしのDAA治療

日本の慢性C型肝炎の患者は高齢化しており,また過去治療の無効症例も多い.よって高齢のためにIFNが使用できない,あるいは前治療無効の超難治例が多く残っており,IFNなしのDAA治療は注目されている.
日本でもいくつかの薬剤が開発治験中であるがその中で1番に登場するのがNS3阻害剤のアスナプレビルとNS5A阻害剤のダクラタスビルの2剤併用療法である.

アスナプレビル+ダクラタスビルの国内第Ⅲ相試験

特徴
・24週間それも内服薬だけの治療.
・Peg-IFNもRBVも使用しないため,副作用でIFNができない症例やIFN無効例でも治療対象

結果
・IFNが無効例:81%
・IFNが使用できない症例:87%
併せての駆除率は85%と高率である.
そして…

この経口剤のみでの治療ではIL28Bタイプはもはや関連がない
メジャーマイナーに関わらず駆除率は85%であり,年齢や肝硬変の有無でも治療効果には差がない.
この経口2剤併用療法により,IL28Bマイナータイプや前治療無効例,さらにIFN使用不可能症例でもHCV駆除が可能となったことから,C型肝炎の大きなブレークスルーとして臨床現場では導入を待ちわびている.

残る薬剤耐性問題

しかしながら結局駆除率は100%ではない.これは結局薬剤耐性変異による.
HCV遺伝子のうち

・NS3のQ80,R155,A156,D168が変異したウイルス→NS3阻害剤の効果が減弱
・NS5AのL31,Y93が変異したウイルス→NS5A阻害剤の効果が減弱

このような薬剤耐性ウイルスがC型肝炎患者の体内に治療前から存在することが分かった.
アスナプレビルとダクラタスビルの国内臨床試験では

・NS3のD168が変異したウイルスに感染していた患者→0.9%
・NS5AのL31変異ウイルスに感染していた患者→4% 
    Y93変異ウイルスの感染患者→14%に認めた.

このような耐性変異ウイルスの感染患者ではHCV駆除率が低下し,経口2剤でも

・D168変異:50%
・L31変異:33%
・Y93変異:45%でしか成功しなかった.

さらに治療を失敗してしまうとNS3とNS5Aの両方に対する耐性を獲得した多剤耐性多重変異ウイルスが効率に残ることもわかった.
逆に耐性がない患者ではHCV駆除率は90%超であるため

治療する前に薬剤耐性の有無を確認することが極めて重要となった.
IFNなしの経口剤だけの治療によって,IFN治療に対する体の反応を規定するIL28B遺伝子は克服できたのに対し,新たな薬剤耐性変異という難問が浮上した.

DAA時代の治療選択とは

今後の展望として新しいDAAクラスのNS5B阻害剤を中心とした薬剤開発や耐性ウイルスに対しても十分な活性のあるDAAの開発,あるいは2剤ではなく3剤併用など新しい開発試験が国内外で行われている.ただし一旦耐性が生じるとそれに対する対策は現時点ではない.

DAA治療開始

●耐性変異なし→経口剤で治療スタート

●DAA耐性変異あり→IL28B遺伝子タイプを調べる

→メジャータイプ→異なるクラスのDAAとPeg-IFNの併用療法では治療効果に耐性変異の影響を受けないため,このような患者では安易にIFNなしの治療薬に走ることなく,IFNが効きやすい患者ではDAA・Peg-IFN・RBV併用療法を選択する.

→マイナータイプ→異なるクラスの薬剤を最初から多剤同時併用することで新たな薬剤耐性変異を惹起するリスクを減らす,あるいは3クラスのうち1つに耐性があっても異なるクラスのDAA2剤を使用することでHCV駆除が可能であることも実証されつつある.

といったところでしょうか?良薬は次々発売されますが,新薬を次々と投与するとどのDAAも効かない薬剤耐性ウイルスに感染した患者を作ってしまいます.国内でのDAAの使用方法などの標準化が急がれるでしょう.

ちなみにアメリカ肝臓学会にてギリアド社のレディバスビル・ソフォスブビル併用療法は97%の著効率,RBV併用でほぼ100%の奏功率だそうです.(24週間治療)
ちなみにソフォスブビルは1錠1000$,12週間で84000$(ほぼ1000万円)だそうです(^_^;)
高価ですね…
今日はこのあたりで

肝臓の一般知識~やや専門的な知識についてはこちら↓最新知見は載ってませんが

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コメント8 comments

  1. マロ

    はじめまして。
    HCV 薬剤耐性で検索をかけたら こちらのページにたどり着きました。
    肝機能正常、遺伝子検査で人側もウィルス側も効きにくいタイプで治療待機している者です。先日、経口剤の認可の前に 薬剤耐性の検査をすすめられました。
    こちらのページで、耐性検査の重要性がよくわかりました。
    新薬に関しては、耐性問題もありますが、助成対象の問題があり、未治療患者の自分がその対象に成れるのかを心配しております。
    耐性検査をすすめられるくらいですから、多分、未治療患者でも、遺伝子検査の結果があれば、IFN不適合者と言えるのでは?と期待していますが、いかがでしょう。

    このページ、素人にもわかりやすくまとめられてありますので、他の方にも紹介させていただきますね。

  2. ryo

    コメントありがとうございます.ガイドライン的にはgenotype1での高ウイルス例はPEG-INF+リバビリン+テラプレビルが基本となりますが,IL28Bの遺伝子およびウイルス側の遺伝子変異を参考に治療が決定されます.ですので未治療にせよ遺伝子・ウイルス共に変異がある場合で薬剤耐性があるとなると,明らかに基準治療に反応する可能性は低いと考えられます.すなわち新薬の助成も受けられる可能性が高いのではないかと考えます.ただ助成の詳細については存じておりませんので,答えになっていなければすみません.肝臓の先生にも聞いてみます.

  3. ryo

    マロさん
    肝臓専門医の先生に伺ったところやはり,初治療では3剤併用を施行してからの新薬の助成適応となるようです.

  4. マロ

    ryoさん こんばんは~

    しばらくぶりにお邪魔しました。
    お返事いただいていたのに、気づくのが遅れてしまいました。
    助成情報ありがとうございました。
    国の予算の問題や、今、早急に治療が必要な患者さん(前治療無効者など)に比べれば、未治療の私は、まだ待機もできますし、したければ3剤でも治る可能性があるので、助成対象にならないのは、妥当な意見だと思います。

    また、経口治療に関して、良い情報がありましたらお知らせください。
    お願いいたします。
    ありがとうございました。m(__)m

  5. さんちゃん

    DAAについて調べていてこのサイトにたどり着いた、卒後30年の広島の開業医です。各分野について要点を押さえた明快な解説は素晴らしいです。他のページも見ましたが、卒後4年目で書かれた内容としてはレベルが高く、立派な病院で研修をされている大変頭が切れる方とお見受けしました。今から忙しくなられ、実績の残る論文とは違ってこのようなページを書かれるのは大変でしょうが、我々のような者が勉強で見ている事も知ってて下さい。これからもがんばって下さい。お気に入りに登録しました。

  6. ryo

    ありがとうございます.お褒め頂き,大変うれしいです.開業医の先生方はとても忙しいと思いますので,少しでも当サイトから簡便に情報を仕入れて頂ければ幸いです.
    現在病院を移って臨床がかなり忙しくなっていますが,なるべく頻回にUPしていこうと思いますので今後ともよろしくお願いいたします.

  7. 山口 今日子

    現在、耐性ウィルスの結果待ちですがどんな人が耐性ウィルスを持つのですか?タイプがあるのですか?どのくらい耐性ウィルスを持つのですか?治療は初めてです。

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6年目消化器・内視鏡医師です。 日々の経験や症例を紹介しながら役に立った書籍や論文を紹介していこうと思っています。 まだまだ若輩者ですので色々とアドバイスなど頂ければありがたいです。 また私の好きな小説や趣味の世界についても紹介しようと思っていますので、こちらも気が向いたら立ち寄って下さい。

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